侯爵家婚約物語 ~祖国で出会った婚約者と不器用な恋をはじめます~
大道芸を見た後、コーディアは小説の舞台となった街中を歩いた。角にあるコーヒースタンドは名前こそ違ったが小説に出てくる雰囲気そのままだったし、事件のヒントになる通りの名前は、実際にある通りの名前を少しもじってあって、頭の中で違いを探すのが面白かった。
一人で感心するコーディアに嫌な顔しないで彼は付き合ってくれた。
「きみの家出の原因は私と母上に原因があるということは話し合ったが、私が今日きみを百貨店に連れてきたのは……自分が貴族という枠にとらわれすぎていると反省したからだ。友人に指摘をされたわけだが……私自身が考えたからだ。本当は、きみとちゃんと話をしたいと思っていた。けれど、やり方が分からなかった」
彼の本心なのだろう、少し切れ切れに話す姿は平素のそつのない貴公子というよりは人間味にあふれていた。
コーディアの心がちくりと痛んだ。
たぶんコーディアは逃げていた。
怖い人だと思い込んでいたから。彼はコーディアに対して呆れているんじゃないかと勝手に決めつけていた。
「わたし……は……」
なんて言ったらいいのだろう。
「別にきみを困らせるつもりはなかった。アイスクリームがとけてしまう。先に食べてしまおう」
一度話が中断して二人は目の前の皿に集中した。
男性と二人きりでお店に入って、アイスクリームを食べる日がくるなんて。一年前には考えてもみなかった。
「おいしいな」
彼が他意なく言うものだからコーディアも「はい」と頷いてしまった。
「ほかに好きな菓子はあるのか?」
「ええと。ムナガルでは保存のきく焼き菓子が多かったんですけど、寄宿舎の食事ではデザートは出ないので差し入れで届けられたときだけ食べていました」
「そういうところは私の寄宿学校時代と変わらないな」
ライルが微笑んだ。
普通に会話が進んでいるのが不思議だった。彼はこんな風に笑うんだ。
口の端を少しだけ持ち上げて微笑する。けれど、ちゃんと瞳も笑っているから本心からだということが分かる笑みだ。
二人が皿の中身を空にした頃、ライルがもう一度口を開いた。
「これからも、こうして時々一緒に出掛けないか? 動物が好きなら動物園に行くのもいいし、夕食前に少し話をするのでもいい。お互いに、自分のことを話さないか?」
ライルの提案にコーディアはつい頷いてしまった。
◇◇◇
翌日の午後、コーディアは屋敷の図書室で本を選んでいた。壁沿いに並んだ本棚には分厚く重厚な装丁の本がぎっしりと並んでいる。デインズデール家全員の本が置いてあり、背表紙を確認するだけでもなかなかにバラエティに富んでいる。
コーディアはエイリッシュが収集したという小説を手に取ってみた。
インデルクの小説は今まで読んだことがないのでどれも新鮮でいくつか手にとってはぱらぱらと項をめくり中を確認する。
面白そうなものがあればシリーズを読み進めるつもりだ。
何冊目かを手に取ったところで、「コーディア?」と声を掛けられた。
「ライル様」
いつの間にかライルが帰宅をしていた。
「今日の予定は全て終わられたのですか?」
昨日は一日コーディアに付き合ってくれたから、今日は忙しい物だと思っていた。
ライルはコーディアの言葉に頷いた。
彼はコーディアが手に持っていた本に視線を向ける。コーディアは慌てて本を背中に隠した。
悪いことをしているわけではないけれど、あまり知らない人に自分の読んでいる本を知られるのは好きではない。というか、まだライルに対しては警戒感がある。
「……別に隠さなくても……」
「……」
ライルの小さな声は、少し落胆しているようでコーディアは罪悪感を覚えた。
あまり知らない人、とか考えてごめんなさいと心の中で謝ることにした。
「せっかくだから、少し話さないか?」
ライルは昨日コーディアに申し出たことをさっそく実行に移す気のようだ。
「はい」
コーディアは素直に頷いた。
一人で感心するコーディアに嫌な顔しないで彼は付き合ってくれた。
「きみの家出の原因は私と母上に原因があるということは話し合ったが、私が今日きみを百貨店に連れてきたのは……自分が貴族という枠にとらわれすぎていると反省したからだ。友人に指摘をされたわけだが……私自身が考えたからだ。本当は、きみとちゃんと話をしたいと思っていた。けれど、やり方が分からなかった」
彼の本心なのだろう、少し切れ切れに話す姿は平素のそつのない貴公子というよりは人間味にあふれていた。
コーディアの心がちくりと痛んだ。
たぶんコーディアは逃げていた。
怖い人だと思い込んでいたから。彼はコーディアに対して呆れているんじゃないかと勝手に決めつけていた。
「わたし……は……」
なんて言ったらいいのだろう。
「別にきみを困らせるつもりはなかった。アイスクリームがとけてしまう。先に食べてしまおう」
一度話が中断して二人は目の前の皿に集中した。
男性と二人きりでお店に入って、アイスクリームを食べる日がくるなんて。一年前には考えてもみなかった。
「おいしいな」
彼が他意なく言うものだからコーディアも「はい」と頷いてしまった。
「ほかに好きな菓子はあるのか?」
「ええと。ムナガルでは保存のきく焼き菓子が多かったんですけど、寄宿舎の食事ではデザートは出ないので差し入れで届けられたときだけ食べていました」
「そういうところは私の寄宿学校時代と変わらないな」
ライルが微笑んだ。
普通に会話が進んでいるのが不思議だった。彼はこんな風に笑うんだ。
口の端を少しだけ持ち上げて微笑する。けれど、ちゃんと瞳も笑っているから本心からだということが分かる笑みだ。
二人が皿の中身を空にした頃、ライルがもう一度口を開いた。
「これからも、こうして時々一緒に出掛けないか? 動物が好きなら動物園に行くのもいいし、夕食前に少し話をするのでもいい。お互いに、自分のことを話さないか?」
ライルの提案にコーディアはつい頷いてしまった。
◇◇◇
翌日の午後、コーディアは屋敷の図書室で本を選んでいた。壁沿いに並んだ本棚には分厚く重厚な装丁の本がぎっしりと並んでいる。デインズデール家全員の本が置いてあり、背表紙を確認するだけでもなかなかにバラエティに富んでいる。
コーディアはエイリッシュが収集したという小説を手に取ってみた。
インデルクの小説は今まで読んだことがないのでどれも新鮮でいくつか手にとってはぱらぱらと項をめくり中を確認する。
面白そうなものがあればシリーズを読み進めるつもりだ。
何冊目かを手に取ったところで、「コーディア?」と声を掛けられた。
「ライル様」
いつの間にかライルが帰宅をしていた。
「今日の予定は全て終わられたのですか?」
昨日は一日コーディアに付き合ってくれたから、今日は忙しい物だと思っていた。
ライルはコーディアの言葉に頷いた。
彼はコーディアが手に持っていた本に視線を向ける。コーディアは慌てて本を背中に隠した。
悪いことをしているわけではないけれど、あまり知らない人に自分の読んでいる本を知られるのは好きではない。というか、まだライルに対しては警戒感がある。
「……別に隠さなくても……」
「……」
ライルの小さな声は、少し落胆しているようでコーディアは罪悪感を覚えた。
あまり知らない人、とか考えてごめんなさいと心の中で謝ることにした。
「せっかくだから、少し話さないか?」
ライルは昨日コーディアに申し出たことをさっそく実行に移す気のようだ。
「はい」
コーディアは素直に頷いた。