愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~
『キヨ本人の気持ちはどう?本当に幸せなのかしら』
茉莉乃さんの言葉がふいによみがえり、心がまた暗くなる。
私は、どうするのが正解なんだろう。
思わずそれを手にとり、手のひらにのせてみつめていると、突然ピンポーンとインターホンが鳴った。
誰だろ……増田さんかな。
この家を訪ねてくる人と言えば増田さんくらいしか想像つかず、私は一階におりて玄関のドアを開ける。
「はい」
するとそこには、増田さんではなく周さんの姿がある。
白いニットにデニムと今日はめずらしく私服姿だ。
「周さん?」
「こんにちは。相手確認せずドア開けるなんて不用心だね」
「あっ、確かに……」
油断しきっていた私に周さんは笑顔を見せる。
「でも周さんが訪ねてくるなんてめずらしいですね。どうしたんですか?」
「元気かなって思って。顔見にきた」
そう言いながら、彼の視線はなにげなしに私の手元へ向けられた。
その先を追いように私も見ると、先ほど手にとっていたストラップを持ってきてしまっていたことに気付いた。
「あっ、これはその」
「それが噂の、名護の初恋の思い出だ」
「はい、そうなんです。初恋の……」
会話の流れで口に出そうとした、けれどそれと同時にぽろっと涙がこぼれだす。