愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~



「だから妻としてうまくやろうとか思わなくていい。きみと俺が夫婦でいるのは戸籍上のみで、あくまで他人だ」



名護さんはそう言うと、「仕事に戻る」とリビングを後にする。

旅館のほうへ向かったのだろう。少しして、静かな廊下の奥から玄関のドアが閉まる音だけが聞こえた。



思った以上に割り切ってるなぁ。

彼からすると結婚といっても仕事の延長のようなものなのだろうか。

夫婦として、と覚悟を決めて来ただけに拍子抜けしてしまった。



それに自室まで用意してくれてるとは思わなかった。

部屋を確認しようと私はふたたび二階にあがり、手前の部屋のドアを開ける。



そこには大きな窓とフローリングという、リビングと同じ雰囲気の部屋。

白いローテーブルやチェストなど、自宅から送った家具がバランスよく配置されている。



ベッドはいらないかと思って送らなかったけど、ちゃんと用意してくれている。しかも黒いフレームのアイアンベッド、と高級感があってかわいい。



部屋を数歩歩いてレースのカーテンを開ける。

日本庭園が広がっていた一階とは違って、ここからは広がる芦ノ湖がよく見える。



「綺麗な景色……」



一階の景色も素敵だったけど、これはこれで開放感にあふれている。



陽の光が湖の水面に反射するその景色は、これまで見てきた山ばかりの地元や、ビルに囲まれた東京とも違う景色。

今私がここにいることがなによりの証なのに、結婚したという実感はない。

それは、先ほどの名護さんの言葉もあるかもしれない。


  
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