愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~
「初めまして!わたくし仲居兼副社長のお宅のハウスキーパーを務めております増田と申します」
髪をひとつに束ねお団子にした、ややふくよかめな増田さんは、ふっくらとした頬を持ち上げ笑う。
明るい声とにこやかな表情から人のよさそうな雰囲気が伝わってくる。
「あっ、初めまして。杉田春生と申します!」
「あらやだ、もうご結婚されたんでしょう?じゃあ名護春生さんじゃないですか」
冷蔵庫も開けたまま深々とお辞儀をする私に、増田さんはおかしそうに笑ってキッチンへ入った。
言われてみれば確かに……。
慣れないせいで、まだ無意識に杉田と名乗ってしまう。
「おうちのことは私を始め3人の仲居で毎日交代で行なっておりますのでなんでもおっしゃってくださいね」
にっこりと笑って言った増田さんに、私は「よろしくお願いします」と今度は小さくお辞儀をした。
「ところでお台所でなにを?」
「ちょっとお昼ごはんでも作ろうかなと」
正直に答えた私に、増田さんはそれまでにこにことしていた顔を途端に曇らせる。
「お料理を!?わたくしがいたします!奥様はあちらでゆっくりしていてください!」
そして私の背中をぐいぐいと押して、あっという間にキッチンから追い出した。
「いえ、私することないですし家のことは自分で……」
「ダメです!副社長からも、『彼女にはなにもさせないように』と言われておりますので!」
名護さん、余計なことを……!
増田さんは私を半ば力ずくでソファに座らせると、せかせかとキッチンへ戻り食事の支度を始める。
これじゃあ本当になにもできない……!どうしたらいいのやら。