愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~



「さっきはごめんなさいね」



すると、静かな車内で突然増田さんがつぶやく。

突然なんのことかと運転席のほうを向くと、増田さんは真っ直ぐ前を見たまま苦笑いをした。



「あの子たち、奥様がいらっしゃることに気づかないで、なにか言ってましたでしょう」

「え……はい、まぁ」

「やっぱり。変な空気だったからもしかしたらって思ったんです。悪い子たちではないんですけど。あとで注意しておきますから、気を悪くされないでくださいね」

「そんな、大丈夫です」



自分のせいで彼女たちが叱られると思うと心苦しくて、私は慌てて手を横に降る。



「……お互いのことよく知りもしない結婚なんて続かないって言われてたんですけど、確かにそうかもって自分でも思うので」



少しへこむ気持ちを誤魔化すように、あははと笑ってみせる。



あの言葉が胸に刺さるのは、自分でも思えてしまうから。

まだほんの少し近づいただけで、互いをよく知らないままの私と彼の心はまだまだ遠い。

いつ終わってもおかしくない危うさの中にいること。



「そうですか?わたくしはいいご夫婦だと思いますけど」



けれど、増田さんはそのひと言でこの気持ちのモヤを払ってくれる。


  
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