愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~
そっか……そうだよね。
心の距離があるのなら、少しずつ埋めていけばいい。
周りの目や言葉なんて気にせずに。ひとつひとつ、彼を知って自分を見せていけばいい。
「ありがとうございます。増田さんのおかげで、なんだかスッキリしました」
「ふふ、年の功ってやつですよ。お力になれならなによりです」
それから私と増田さんは、沢山話をしながら街へ行き、スーパーで買い物をして帰路についた。
よく笑ってよく話す増田さんはその雰囲気がどこか冬子さんに似ていて、楽しい時間を過ごすことができた。
そして帰宅して夕飯を作り……ちょうど出来上がった頃に名護さんが帰ってきた。
「おかえりなさい」
今日のメニューは筑前煮と茶碗蒸し、たまにはお味噌汁ではなくすまし汁にしてみた。
味付け薄めにしてみたんだけど、どうかな……。
反応が気になり表情を伺うけれど、名護さんはいつもと変わらぬ無表情のまま無言でおかずを口に運ぶ。
顔にも出ないから、美味しいのかそうじゃないのかも読めない……!
けど増田さんも言っていたし、こういう時こそ聞いてみよう。
「名護さん、味付けどうですか?」
「あぁ、そうだな」
いや、返事になってない!
「好きな食べ物とかありますか?よかったら今度作りますけど」
「いや、特には」
好きな食べ物もなし!
うう、聞いてみても結局答えは返ってこないなんて……!
心の中でがっくりしてしまう。
「……けど、これは美味いな」
名護さんはそう言いながら、筑前煮を食べる。
彼のそのひと言がうれしくて、この顔の表情が明るくなるのが自分でもわかった。
「本当ですか!?じゃあ毎日作りますね!」
「それはいい」
そっか、こういうの好きなんだ。今日の味付け覚えておこう。
味付けの感想も好きな食べ物もない。だけどたずねてみなかったらその言葉も聞けなかった。
よかった、とつい頬を緩めて笑う。
それを見て名護さんは、どうして笑っているのかがわからないといった顔で食事を続けた。