冷酷陛下は十三番目の妃候補に愛されたい

ここで頷けばどうなる?政略結婚の道具として育てられた“リガオ家の娘”からすれば願ってもない話。

だけど、愛を求めずビジネスとして使われるだけを望んでいた“私”にとっては大誤算だ。大切にしてもらえる立場じゃない。同じ気持ちを返せない。


「そんな顔をしないでくれ。籍を入れるのは、ランシュアが俺を好きになってくれるまで待つ」

「お気遣いは嬉しいのですが、そもそも私はあなたの妻になるべくここに来たので断る権利もないといいますか……」

「いや。妻になる人は心から幸せにしたいんだ。一方的に気持ちを押し付けて嫌々結婚されても嬉しくないし」


髪をすくい、ささやかれる。

しかし、穏やかな口調とは裏腹に、獲物をとらえたような視線が向けられた。


「だから、これからは覚悟してくれ。君が心から妃になりたいと思えるようにしてあげる」


つぅっと背中を撫でる片手。優しく後頭部を包み込む指の感触に体が熱くなる。

まさか、またキスをするつもり……!?

身構えた私が目を閉じて顔を背けると、くすっと小さな声が聞こえた。予想に反して無防備な首筋に吐息がかかり、驚きのあまり硬直する。


「俺に惚れるまで逃がしてあげない」


からかうような耳への口づけとともに鼓膜をくすぐったささやきは、腰が砕けそうになるほど甘かった。

そしてこの日を境に、陛下の口説き文句に翻弄される生活がはじまったのだ。

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