【完】白坂くんの溺愛は危ないことだらけ
他校の制服を着ている。
……背の高いひとりの男を除いては。
月下の元、その中心に立っている男は漆(うるし)のように黒くて長い髪をしていた。
ほんの一瞬だけだったけれど、その横顔は白坂くんと同じくらい綺麗で、美形という言葉が相応しいような気がした。
けど、圧倒的に凄みのあるその男が眼下に捕らえていたのが、白坂くんだ……。
どうして、私の家の近くに白坂くんが?
噂じゃ、駅方面のマンションに住んでいると聞いていた。
「俺の顔に泥を塗ったことを忘れてはないよな? 関心するほどいい度胸してるね、凪」
ただならぬ雰囲気を纏うその男。
深みのある声。
けど、無理に優しさを作ったような口調。
「まだ根に持ってんの? 本当、あんたらってしつこいね」
その瞬間、髪の長い男が白坂くんの胸ぐらを掴みあげた。
ドンッ! と大きな音と同時に、白坂くんは乱暴に電柱へと押し付けられた。
「可愛がってあげようと思ったが、残念だ」
「は? 冗談だろ。あの時も年下相手に容赦なかったのはそっちじゃない?」
「凪が撒いた種だろ。テメェで刈れ」
「その台詞、そのまま返すよ」
軽く吐き捨てると、白坂くんはフッと鼻で笑った。