ウブで不器用なお殿様と天然くノ一の物語
「親父が、朝から各科の部長に吹聴して回ったみたいだ。だからもう院内で知らない人はいないと思うぞ。」

「ひぇ…」

マジか…

「ま、もう逃げられないからな、覚悟決めろ。
それより、なぁ、今日もくノ一だろ?」

「あ、うん。
スマホ取りに一旦家に戻るけど、すぐに出るよ。」

「あーあ、俺、当直だから迎えに行けない。」

「え、いいよ。
車だと遠いし、仕事終わってからわざわざ来てもらうなんて申し訳ないよ。」

車だと、山があるからね。
道が蛇行してて遠くなっちゃう。
山を最短距離でガンガン登っていく電車は早いんだ。

「ちょっとでも一緒にいたいんだ。
全然遠くないよ。」

あ、甘い……溶けそうだ…。

あぁ、でも、実はこういうのを求めてたのかも。今朝の展開は、コレをすっ飛ばしてたから、実感がなかったんだな。

「灯里、健心も心配だとは思うけど、なるべく早く一緒に暮らしたい。
おばさんにも挨拶に行くから、日程考えといて。」

「……うん。わかった。」

「じゃあな。」

チュッと軽くキスして、7階の扉を開けて出て行った。

あ、甘いよ…

激甘モードの仏像がむずがゆくって、尻込みしてしまう私だった…。











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