ウブで不器用なお殿様と天然くノ一の物語
「…それはわかってる。
楽しそうにしてるからな。見てたらわかる。」

良かった。
そこは伝わってるようだ。

低い給与のことも、おそらく父は知らないだろう。あの人はあくまでも医師だからな。
灯里の給与を含めた事務手続きなんて、事務方の者に任せてしまったんだろう。

「すべての責任は俺にある。
俺が、しっかり灯里を繋ぎ止めておかなかったからだ。」

何度も後悔した。
卒業した時に戻れるものなら、戻って告白するよ。

「…なぁ。なんで別れたんだ?
俺、不思議でならなかった。
幼くても、俺、そこそこ知恵があったよ?
俺が見てても、お互いしかいないって感じだった。それに、俺が目撃しただけでも76回。
帰り際にキスしてた。
これ、氷山の一角だよな?
きっと何百回ってキスしてたはずだ。
あれで、大学入った途端、別れるなんて意味がわからないよ。
じゃあ、なんで灯里に無理矢理勉強させて、K大入らせたのさ?
一緒に通うためだろ?
大学に入っても付き合っていくつもりだったんじゃないのか?」

…見られてたのか…76回…。
そりゃ付き合ってるようにしか見えないよな。

「事実だけ言えば、付き合ってはいなかった。
確かに別れ際、いつもキスしてたけど。
……俺は…もちろん好きだった。
大学も、一緒に通うのを夢見てた。
けどな、俺がヘタレすぎたんだ。
一言、付き合ってほしい、って言わなかったばかりに、灯里、大学に入ってすぐ、他に彼氏が出来たんだ。告白も出来ないで、俺フラれたんだよ。」

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