ウブで不器用なお殿様と天然くノ一の物語
「彬良?
どうしてここにいるのかしら?」

信じられない!
後をつけて、聞き耳立ててたなんて。

「顔合せはもう終わったから、君も良かったらこっちに来ないかい?」

ニコニコ笑いながら話しかける斎。
なかなか肝の据わった人だ。

「あ、いや……
し、心配で………」

チラチラと私の顔色を伺いながら
どうしようかとオロオロしている彬良は
本当にヘタレだ。

「……はぁ。
全くもうっ!こっち来て。
紹介するから。」

「斎、この人は私の同級生で、上司の息子の廣澤彬良です。」

「ああ、そう言えば、大病院の院長秘書さんだったね。姉からそう聞いてる。
そこの息子さんって、姉の友達の旦那さんじゃないの?」

「あ、それは長男の修司先生で、こっちは次男です。」

「……なるほど。
長谷川斎です。
洋菓子屋のHASEGAWAで専務をやってます。
改めてよろしく。」

「廣澤彬良です……。内科医です。
すみません。邪魔するつもりはなくて…。」

ごにょごにょと顔を真っ赤にさせながら自己紹介なのか、言い訳なのかわからない言葉を呟いている。

「何度か言ったけど、俺、口説いてたわけじゃないからね?」

あ、そうだ。
確かに言ってたな。
あれは後ろにいる彬良のためだったのか…。

「それに俺、ちゃんと婚約者いるから。
幼馴染なんだ。
かた〜い絆で結ばれてるんで。」

そうなんだ。
……こういう趣味を持った旦那さんも、
大変だなぁ…。

「あ、灯里、今、俺みたいな旦那、大丈夫か?って思ったよね?」

な、何故わかる……

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