チヤホヤされてますが童貞です
深呼吸して、撮影再開。

『俺の何がわかるって言うんだよ…』
『わからないよ…。わかりたいから…そばにいさせてよ…』

凛の泣きながら話す姿。
さすがプロって思える腕前。

休憩時間に高められた集中力のおかげか、その後の演技は男女の絡みが少ないこともあって相手に乗せられるように演技が順調にできた。




帰りの送迎中、マネージャー服部が運転する車にて。

「いやぁお疲れ様!」

「…………」

「……本当にお疲れ様なんだね…」

無反応な抜け殻状態の綾斗をミラー越しに見て、服部は苦笑いを浮かべた。

「……うぅ…どうしたらいいですか…?」

「………ん〜、凛ちゃんと仲良くなったら良いんじゃない? 同じ事務所で同期なんだし。」

「……仲良くって…簡単に言いますけど…」

何か言い返そうとした時、遮るように服部は口を動かした。


「事務所所有のマンションにこれから引っ越せる?」


「は?」

何言ってんだこの人、といった目線を向けるが、気に留める様子もなく服部は話し続ける。

「今の狭くて安いアパートじゃなくて、セキュリティのしっかりした場所に引っ越すべきだと思うんだよね〜。」

「……それは俺も最近思ってますけど」

「じゃあ決まりね! 僕も引越しの手伝いするから!他にも何人か連れて行くし!」

「え? 本当に『これから』!?」

「え、うん? 無理だった?」

「引越しの手続きとか色々…」

「あー別に今のアパートの家賃は会社が負担するし、契約しっ放しでもいいよ! もし気に入らなかったら帰れるように」

「……?」

何故、楽しそうに話しているのか、何かこの言葉に裏があるのではないか、と疑心暗鬼に思いながら車窓から景色を眺めた。
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