チヤホヤされてますが童貞です
童貞ですが…

ルージュのCM

「いやぁ!僕は綾斗くんの成長に感動した!キスシーンの撮影よかったよ!」

マネージャーからベッタベタに褒められる帰りの車内。流れる景色をうつろな瞳で眺めていた。

「凛ちゃんとの熱愛報道で炎上させて視聴率稼ぐのもありだよね! 本当にお似合い!」

(サラッと凄いこと言ったぞ…。この人…。)

心の中で服部に悪態を吐きながら、シートに身を委ねて脱力する。

「………ドラマの撮影もあと少しって思うと寂しいね。2人が望むなら別に引っ越しせずにそのまま同棲してても良いけど……付き合ってないなら、そうはいかないよね」

ドラマの撮影も残りわずか。
思えば互いの異性慣れのために始まった同居生活。その終わりも近づいていることを今になって気づく。

「綾斗は…凛ちゃんと…」
「?」
「いや、愚問だった。僕が介入しなくてもなるようになるのにね」
「……何がですか?」

途中で辞めた問いかけが気になり、続きを聞こうと言葉を発するが『なんでもなーい』の一点張りで車はマンションに到着してしまった。

「そういえば、凛ちゃんの出てる口紅のCMが今日から放送だよ〜。」

礼を告げて綾斗が降りると、服部はそれだけ言い残して、マンションの駐車場へと車窓を開けたまま車で入っていった。

(凛のCMか。口紅……)

そして頭をよぎる柔らかな凛の唇。
相変わらず不慣れ感満載な綾斗の顔は紅潮していった。頭を軽く振ることで、そのよろしくない雑念を振り払おうと試みる。

今までのキスシーンの撮影は全て『フリ』だった。実際に重ね合わせたキスは今回の撮影が初めてだったわけだが…。

(人前でするの緊張する…。やっぱソファの上とか…2人っきりの時にした方が………)

そこまで考えて綾斗はフリーズした。

「……ぅ…わ…」

もう一度キスする前提で繰り広げられた頭の片隅の思考。

(もう二度としないし!!)

そう、二度としない『予定』である。
それなのにも関わらず、自然と行われた妄想は身体に重たくのしかかった。
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