チヤホヤされてますが童貞です
部屋に着くと、罪悪感を拭い去るためにテレビをつけた。

(凛のCMやってないかなぁ)

俳優として、凛には尊敬の念を抱いている。
発声はもちろん、立ち居振る舞い、全てが配役にピッタリで。

(俺もあんな風になりたい)

などと考える毎日。


ぼうっとしたままテレビの液晶を見つめていると、甘い雰囲気の画面に切り替わった。

『このルージュ、付けてみない?』

(あ、凛だ)

おそらく服部が言っていたCMが流れ出す。
タイミングの良さに驚きつつ、目線を食い入るようにテレビへと合わせた。

『キス、したくなる?』

凛の柔らかな表情と形の良い唇。
相手役の男の人は自分たちと同じ新人俳優だろうか。見たことがない男らしい雰囲気を纏う男性の肩に凛は手を置く。

『………してもいいよ?』

「えっ…」

画面に映し出されるのは、唇が重なってるか重なってないかわからない角度でのキスシーン。
妖艶な笑みは凛にとても似合っていて、色気を感じた。

『新作、出た!』

「…………」

数秒、軽く放心状態に陥る。

「……え!こんなのCM放送していいの!?」

不純異性交遊だ、とか言われるのではないか。
勝手に放送内容を心配して綾斗の味方、グーグルで検索をかけてみる。

(肉体的にセックスできるけど心が未成熟な未成年が………。あ、じゃあキスはいいの…?)

グーグルを見ながら綾斗の思考は巡り廻った。
そして数分後、自分の行動が馬鹿らしくなり、スマホをソファの上へと投げ出す。

「………」

しばし無言のまま、目を瞑った。

「……嫉妬してるとか…付き合ってもないのに…」

自分の独占欲に気づいている。

凛の他の俳優とのキスを見たくない。

変な独占欲を女優に抱くのは、あってはならないことだと断定できる。
それなのに苦しかった。見たくなかった。

「………変なの…」
< 39 / 67 >

この作品をシェア

pagetop