チヤホヤされてますが童貞です

独占欲の猛威

「ただいま」
「……おかえり」

このやり取りも慣れてきたというのに、今日の綾斗はおかしい。そう気づいた凛は、俯く綾斗の座っているソファの前に座って彼の顔を覗いた。

「……綾斗、元気ない? お仕事で嫌なことでもあった?」
「特に何も?」

嘘だ。演技のスイッチを入れていると踏んだ凛は頬を膨らませて距離を詰める。

「なんか気にしてるみたい。」
「……別にそんなことないよ」

凛の唇を無意識のうちに見つめると、つい先ほどテレビで放映されていたCMのルージュを付けていることがわかった。

「………口紅、似合ってるね」
「CM見てくれたの?」
「うん」

凛に似合うピンクのルージュ。発色がよく、魅惑的に瞳に映る。
だがしかしCMのキスシーンが脳裏によぎり、再び吸い込んだ空気が肺の中で重たくなるような感覚が襲ってきた。

「……スイッチOFFになってる」
「………スイッチ?」
「綾斗の演技のスイッチ」

一緒に演技してきた回数の多い凛は、綾斗の演技スイッチのON/OFFが何となくわかる。目つきが違い、簡単に言えばONの時は大型犬、OFFの時は小型犬のような瞳をしているのだ。

「今は小型犬みたい。CMの話した途端に元気なくなった」
「………凛って鋭い。」
「割と他人の眼ばかり見て生きてきたところあるからね。…………私のCM、変だった?」
「ううん」

フイっと顔を逸らして逃げようとする綾斗と向き合うように、凛はソファへと移動する。

「ちょっと俺がおかしいだけ…」

クシャクシャと撮影でセットされた髪をばつが悪そうに撫でた。

「……あのCM…あんまり見たくない…」

ポロッと言ってしまった。
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