離婚予定日、極上社長は契約妻を甘く堕とす
彼は私を見ると、同じように身体を起こしてスマートフォンをテーブルに置いた。それからしばらく、何かを考えていたようだった。少ししてから口を開いた。
「……いずみのことをもっと知りたいと思ってから、ずっと気になっていたことではあるんだ」
「はい?」
「いずみも今自分で言ったように、普通は親の挨拶は必要なものだ。それを、三年前も実にあっさり不要だと言ってた。何か、理由があるのだろうなとは思ってたよ。どんな家族なのだろうかと気になった」
「別に、話したくないとかではないんです。ただ、聞かされても困るだろうなというのが一番の理由で」
話したくない一番の理由がそれだ。佐伯さんには相談の延長で話したけれど、普通そんな話を聞かされても反応に困るはず。だけど、和也さんには自分の口から言わなければ不誠実だ。
聞いてくれるだろうか、と和也さんの表情を伺う。すると彼は、徐に私の手を取り握った。
「いずみが話してくれることならなんでも聞く」
そう言っていつもどおりの笑顔が浮かぶ。それで幾分、気が楽になった。
不幸とまでは思わなかったが、自分の家族が他と違うことは重々理解していて、変に同情されるのが嫌だった。それこそ子供の頃や思春期の頃は、学校行事に両親揃って現れる仲のいい家族を見ると羨ましいと思ったけれど、そんな家ばかりでないこともわかっていた。
問題は、大人になってからだろう。父も母も、離婚してから綺麗さっぱり過去のことは忘れたいのか、それとも私に対して後ろめたい感情でもあったのか、何を話すにもどこか壁を感じた。大学を卒業して就職先も決まったという報告をした時が、最後だ。
「あまりに興味がなさそうというか。電話越しだったんですが、連絡されても困るという空気をひしひしと感じてしまい、だから別に結婚の報告も必要ないと思ったんですよね」
子供の頃からの家庭環境と、最後に連絡を取った時のことを話す。それまでの間、和也さんは私と目が合った時に軽く相槌を打つだけで、ほとんど黙って聞いてくれていた。