離婚予定日、極上社長は契約妻を甘く堕とす
「……挨拶に行った方がいいでしょうか。不義理ですよね」


 彼らのおかげで私は育ち、無事に社会人になったことには間違いないのだから。にも拘らず、なんの連絡もしないなんて普通に考えてありえないことだろう。

 彼の性格的に随分早めに自立したせいか、和也さんもあまり実家との交流は深くない様子だ。だけど、私の場合と違うのは、節目に連絡くらいは入れてるようだし、決して関係が希薄というわけでもない。そういう家で育ったのなら、私の両親への対応は薄情に見えるのじゃないだろうか。
 それが心配だったけれど、杞憂、だったのかもしれない。


「いずみが育った環境のことは、いずみにしかわからないから。どうするべきだとか言うつもりはない」


 手を伸ばして、私の頬を撫でてくる。その温かさも優しさも、変わらず損なわれていないように感じた。
 愛しむような目で見つめられて、心の奥が温かくなる。


「だけど、俺はいずみを産んだ人には一度、会ってみたいと思う。大切にすると伝えておきたい」


 その言葉を聞いて、不意に込み上げてくるものを感じて慌てて目を閉じた。

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