離婚予定日、極上社長は契約妻を甘く堕とす

 唐突に振られた話題だったが、ちょうど結婚生活を思い出していたところだったので、ある意味タイムリーだ。
 彼は私たちの契約結婚を唯一知っている。外部に漏れないように話さなければいけない。だから『離婚』の二文字は使えないものの、当人同士以外で唯一気の抜ける相手だ。


「そう、そうなんですよ。で、先日その話をしたところで」


 予定通りに進んでいます、と話を続ける前に、店の前に着いた。
 暖簾をくぐり引き戸を開けると、程よい騒めきとおかみさんの明るい声が響く。結婚前から和也さんによく付き合わされた店だが、今でもおなじみさんだ。

 厨房をくるりと囲うカウンターの隅の方にふたつ並んだ席を見つけて、そこへ進んだ。お疲れ様です、と労い合ってビールを注文し、滝沢さんが料理の品書きを見ている。


 ……あ。和也さんに連絡しておいた方が、いい、のかな。


 以前ならどうせ私が帰るより彼の方が遅いし、気にしないのだが。早く帰って私が戻っていないと驚くだろうか。いや、自由生活だしそんなことはないと思うけれど。


 ……一応、メッセージいれとこ。


「いずみさん、揚げ出し豆腐?」
「もちろんです。あとおでんの袋煮は必須です」


 注文をお願いしながら、スマホを手に和也さんに滝沢さんと飲みに行くので遅くなると知らせておいた。

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