暴君陛下の愛したメイドⅠ《修正版》


「出来たぞ」


書状を全て書き終えると、待機していたファンへ渡す。

書いている時は多いと感じたが、こうして書状を全て抱えている姿を見ると、そうでも無かったようだ。


「さぁ、行ってこい」

「……まさか、俺一人で行かせるつもりではないだろうな?」


まるで信じられないとでも言うかのような目で、ファンがこちらを見る。

当然一人で向かわせるつもりだったが…

「お前に付き添いが必要なのか?」

「もし交渉中に何かあったらどうするんだ…!?」


ファンは一人で交渉に向かった際に、危害を加えられるのではないかと心配しているようだ。

確かにそれも考えられなくはないが、

「大丈夫だろう」

どの国も帝国を敵には回したくないはずだ。

まぁ、しかし…

「心配ならば護衛騎士を数名連れて行くと良い」

「あぁ。そうさせて貰う」

ファンは俺から許可を貰うと背を向けてドアの方向へと歩き出したが、直ぐに立ち止まりこちらを振り返った。


「なぁ、リード。行く前に一つ聞いていいか?」

「何だ?」


「今回の件だが…もしやあの女性が関わっているか?」


わざわざ足を止めてまで聞きたい事が、まさかそれだったとは。

ファンの言っているあの女性とは恐らくアニの事だと思うが、


「お前には関係の無い事だ」


仮に関わっていたとしてもファンには全く関係の無い話だ。

こいつは直ぐ恋だの愛だの結びつけてくる。

そもそも城へ連れて来たのはただ興味深かっただけで、そこには特別な感情など無いと言うのに。

――――…そうだ。

特別な感情などは、これっぽっちも……。


「……くそ」

ファンが余計な事を言ったせいで、気が散ってしまった。


俺は誰も愛さないし、愛するわけにはいかない。

皇帝になると決めたあの日、俺はそう誓ったのだから―――…。


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