翼のない鳥


「・・・え。」


喋ったことない、って。
でも、茜くんは話したことあるって言ってるよ?

「ちょ、何言ってるのよ律!忘れちゃったの?」

実は、こういうこと、けっこうあるんだ。
律は・・・


「ああ、僕、どうでもいい奴のことは忘れるから。」


どうでもいい、と判断した相手のことは綺麗サッパリ忘れちゃう。

こっちがびっくりしちゃうくらい、あっさりと。


普通、喋ったら大なり小なり印象が残ると思うんだけど、律は本当に全部忘れちゃう。

それが不思議でたまらない。

だって、私無理だもん。

この人には関心がない、って例え思ったとしても。
その人と話して数秒後には存在をなかったことにしてしまえるなんて、物理的にも不可能。

忘れられないよ、そんなすぐには。


「まあ、そんなことはどうでもいいんだけど。」


そう言った律は、今のこのやりとりさえ、すでに忘れてしまったのだろう。
私とのやりとりは、どれほど無意味なものでも全部覚えてるくせに。


「なあ、生徒会の皆さん。」


たまに、律がとても遠くに感じることがある。

そういう時の律は、とっても冷たい目をして、抑揚のこもらない声をして。

相手の姿をその瞳に“映し”はしても、決して“見よう”とはしなくて。



「もう、美鶴に関わらないで。」




ほら、ちょうど今みたいに。


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