翼のない鳥
「律クンさあ。」
そこで初めて口を開いた、茜。
覚えていない、と言われてからしばらくおとなしくしていたけれど。
「どうせ俺たちが何を言っても考えを変える気ないんだよねえ。」
「ああ。」
「じゃあさ、こうしよう。」
ニヤリと、怪しく茜は口角をあげた。
・・・不気味だ、非常に不気味だ。
そんでもって、怖いぞ、茜。
弟と良い勝負じゃないか。
ゆっくりと、茜が机の上の退学届けに手を伸ばした。
弟は怪訝そうな表情で、それでも何も言わずに見ている。
そして。
―――ビリビリビリ。
「・・・は。」
唖然、という言葉がよく似合う顔をした弟。
・・・こんだけ彼の表情を崩すなんて、茜も大概ヤバい奴だよな。
「退学届けは、生徒会を通して理事長まで届けられ、そこで受理印を押されて初めて認められる。」
だから、俺らが通さなかったら意味ねえの、と。
食えない笑みを浮かべた茜に、律が絶対零度の視線をむける。
・・・茜もよくあの視線に耐えられるよな。
俺、無理かも。
「というわけで、律クン。ここはひとつ、ゲームをしようじゃねえか。」
ゲーム、と聞いてピクリと弟が動いた。
「・・・どんな。」
聞かなくても、彼にはこのゲームを受けるしか選択肢は残されていない。
ほんっと、恐ろしい奴だよ、茜。
でもってお前、忘れられてたこと、相当根に持ってるよな。