愛執身ごもり婚~独占欲強めな御曹司にお見合い婚で奪われました~
◯
大正時代から続く毛利亭は、伝統的な数寄屋造りの建物で、二十部屋ある個室すべてから自慢の庭園が見える。
季節のよって彩りを変える庭園は、初夏の今は瑞々しい緑に溢れている。
毛利亭は古くから企業や政財界で接待に使われ、華やかな宴が繰り広げられてきたが、最近ではその数が減りつつある。
その代わりに慶事や法事、展示会や芸事の発表などイベントの利用が増えた。
特に最大百名までお迎えできる大広間での神前結婚式は、神社の神主さんと巫女さんが出張して来てくれるので、ありがたいことになかなか予約が取れないと人気だ。
そんな歴史ある建築物の隣に、ひっそりと建つ古い民家がうちの実家。
自分の部屋に戻った私は、ただ放置しておくわけにもいかず父の部屋から持ってきたお見合い写真を、テーブルの上に置いた。
表紙は開かずとも、中に写っている人が誰なのか見当がついている。きっと藤井さんだ。
藤井さんは地元の地方銀行にお勤めで、たしか遠い親族が頭取を務めているとかで、毛利亭を仕事の会合やご家族の集まりでよく利用してくださっている。
藤井さんは部屋を担当した私に、必ず心付けをくれる。
ほかの担当した仲居はもらったことがないと言っていたから、どうやら私だけに渡してくれているようだ。
私は身長156センチの普通体型で、代々毛利家特有の二重幅が広く目はぱっちり大きめだと思うけれど、特別美人なタイプではない。
藤井さんがそんな私のどこを気に入ってくれているのかわからないが、以前心付けとして受け取った封筒の裏にメッセージが書かれていた。
電話番号の上に、〝今度ふたりで食事でもどうですか〟と記されてあった。
けれども私はそれに気づかずに、帳場責任者の父にいつものように心付けを預けてしまった。
おそらく父は、一度きちんと藤井さんと話してみてはどうかと気を回し、お見合いという場を設けたのではないだろうか。
大正時代から続く毛利亭は、伝統的な数寄屋造りの建物で、二十部屋ある個室すべてから自慢の庭園が見える。
季節のよって彩りを変える庭園は、初夏の今は瑞々しい緑に溢れている。
毛利亭は古くから企業や政財界で接待に使われ、華やかな宴が繰り広げられてきたが、最近ではその数が減りつつある。
その代わりに慶事や法事、展示会や芸事の発表などイベントの利用が増えた。
特に最大百名までお迎えできる大広間での神前結婚式は、神社の神主さんと巫女さんが出張して来てくれるので、ありがたいことになかなか予約が取れないと人気だ。
そんな歴史ある建築物の隣に、ひっそりと建つ古い民家がうちの実家。
自分の部屋に戻った私は、ただ放置しておくわけにもいかず父の部屋から持ってきたお見合い写真を、テーブルの上に置いた。
表紙は開かずとも、中に写っている人が誰なのか見当がついている。きっと藤井さんだ。
藤井さんは地元の地方銀行にお勤めで、たしか遠い親族が頭取を務めているとかで、毛利亭を仕事の会合やご家族の集まりでよく利用してくださっている。
藤井さんは部屋を担当した私に、必ず心付けをくれる。
ほかの担当した仲居はもらったことがないと言っていたから、どうやら私だけに渡してくれているようだ。
私は身長156センチの普通体型で、代々毛利家特有の二重幅が広く目はぱっちり大きめだと思うけれど、特別美人なタイプではない。
藤井さんがそんな私のどこを気に入ってくれているのかわからないが、以前心付けとして受け取った封筒の裏にメッセージが書かれていた。
電話番号の上に、〝今度ふたりで食事でもどうですか〟と記されてあった。
けれども私はそれに気づかずに、帳場責任者の父にいつものように心付けを預けてしまった。
おそらく父は、一度きちんと藤井さんと話してみてはどうかと気を回し、お見合いという場を設けたのではないだろうか。