愛執身ごもり婚~独占欲強めな御曹司にお見合い婚で奪われました~
「――菜緒?」
「ん⁉」
頭の中が濃い霧に覆われたように、モヤモヤして考え込んでいた私は、窓の外を見てギョッとした。
マンションの駐車場に到着していたからだ。
「大丈夫? 疲れてる?」
「へ、平気平気!」
空元気の返事をして、車を降りると部屋に向かう。
「今日、忙しかったの?」
眉根を寄せ、下ばかり見て歩いている私の顔を涼介さんが覗き込んだ。
「それほどでもないかな。えっと、常連さんが来てくれて」
「へえ、どんな人?」
「どんなってその、銀行員で……いつもご贔屓にしてくださる方で」
「男?」
乗り込んだエレベーターが最上階に着き、降りる際、涼介さんがドアを押さえてくれた。
「うん、男性だよ」
心ばかり微笑んで、私は涼介さんを見上げた。
けれどもきっと、上手く笑えていないと思う。心にさっき芽生えた疑念がつまっていて、重苦しくて仕方がない。
「ふーん」
気のないような返事をして、涼介さんは玄関のドアを開けた。
中に入り、靴を脱ごうとしたその瞬間。目の前が真っ暗になって、何事かと驚いた私は息を止めた。
「――んっ!」
近すぎて焦点が合わない。
けれども、唇にともった柔らかい感触で、なにが起こっているのか見当がつく。
チュッと音を立ててついばんだり、唇を加えるように優しく吸ったり、激しさに緩急のある大人のキス。
私が体を押し返すのを見越してか、涼介さんにしっかりと両手を押さえられている。
息が苦しくてきつく目を瞑ったまま、涼介さんの動きに身を任せることしかできない。
「ん……ふっ」
背中を玄関のドアに押し付けられて、逃げ場のない息苦しさに酸欠状態になったのか、頭がクラクラしてくる。
私が首を左右に振る仕草をすると、涼介さんは最後にチュッと音を立ててキスをして、ようやく唇を離した。