愛執身ごもり婚~独占欲強めな御曹司にお見合い婚で奪われました~



数日後。
毛利亭と実家の行き来を何度か繰り返しているうちに、あっという間にお見合い当日を迎えた。


「やっぱり京友禅は鮮やかで素敵ね」


着付けをしながら、母が嬉しそうに言う。

仕事で着慣れた着物に比べれば、今日の中袖はかなり華やかだ。
優しい桃色から淡いクリーム色にグラデーションがかっている地色に、美しい桜の文様が描かれ、まるで花びらが柔らかい風に舞っているかのよう。


「ほんと、綺麗ね」


姿見の前に立って袖を持ち上げ、私は母に同意する。

ヘアメイクは美弥子さんがやってくれた。
着物に合わせて口元も目元もローズ系で、いつもナチュラルメイクの私には少し濃く感じる。
髪型はいつものきりりと固めたお団子結びではなく、ふんわり崩したまとめ方で、垂らしたサイドはコテで巻いてくれた。


「美弥子さん、ありがとう。まるで別人みたい」


仕上がりを鏡で見て、私は映っているのが自分じゃない、違う女性なんじゃないかと疑った。
そのくらい着物とヘアメイクがマッチしていて、太めの平行眉も気にならないし、頬紅のおかげで肌の血色がよく見える。


「菜緒ちゃんは美人だから、メイク映えするわ」
「ううん、美弥子さんのメイクテクニックのおかげだよ」
「そんなことないわよ」


朗らかに笑う美弥子さんの表情はとても穏やかで、こっちまでほのぼのしてくる。

いくら藤井さんは見知った間柄だとはいえ、いざこうしてかしこまった場を設けられるとさすがに結構緊張する。
けれど、美弥子さんのおかげで強張っていた表情が少しほぐれた。

母に連れられ、私は自慢の日本庭園が一番よく見える部屋に向かった。
個室に入ると、窓のすぐ近くで池の鯉が元気に跳ねた。
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