愛執身ごもり婚~独占欲強めな御曹司にお見合い婚で奪われました~
「菜緒、体調悪かったのか?」
「ううん……」
椅子に腰を下ろし、私は首を左右に振った。
さっき涼介さんに顔が赤いって言われ、たしかに微熱がありそうな感じがあったけど、それは恐らく羞恥のためだと思った。
〝非常識な婚約者〟というレッテルを貼られ、涼介さんにまで恥ずかしい思いをさせて申し訳なさでいっぱいだ。
唯子さんのような女性だったら、涼介さんにこんな惨めな思いはさせないのに。
私よりも付き合いが長いし、こういう場での振る舞いも心得ている。
私よりも、すべてにおいて優れている……。
「涼介さんと唯子さんは、学生時代から仲がよかったんだね」
口を突いて出た言葉に、かがみ込んで私の顔を覗く涼介さんは目を見開いた。
「なんだよ、急に」
「だって、見ていてそう感じたんだもの。唯子さんが、ただの同級生じゃないって言ってたけど……」
どういう関係だったの? という言葉は、尻込みして続かなかった。
けれど、長い息を吐いた涼介さんは吹っ切れたように口を開く。
「いずれ菜緒の耳にするかもしれないから話しておくけど、」
私はゴクリとつばを飲んだ。
「婚約者だったんだ。昔の話だよ」
言いづらそうに眉を潜め、涼介さんは続けた。
「ごめん、俺スピーチを頼まれちゃってさ。ちょっと行って来ていいかな。ここには秘書にいてもらうから」
振り向いて、待機している秘書に目で合図する。
「ううん、私は本当にもう大丈夫だから。秘書さんだって忙しいだろうし、ひとりで平気。行って来て?」
なんとか笑って答える。
涼介さんは釈然としないような顔つきだったけど、仕方ないと諦めたのか私の前から立ち去った。