愛執身ごもり婚~独占欲強めな御曹司にお見合い婚で奪われました~
意識が遠のいた後、気がついたのはすぐのことだと思った。
ふと目を開けると、懐かしい天井が見えた。

私、どうしたんだっけ……。
たしか配膳の途中で廊下で具合が悪くなって、倒れて。
きっと母か兄がすぐに部屋まで運んでくれたんだ、と気づいた。

頭痛がする。熱中症だったのかもしれない。
きっとランチタイムはまだ終わってないだろうから、働かなくては。


「痛……」


電流のように走る頭痛に耐え、起き上がろうしたそのとき、手が温かいことに気づいた。


「菜緒」


すぐそばで声がして、私はギョッとした。
横目でベッドサイドを見ると、涼介さんが私の手を握っている。


「りょ……さ……」


涼介さん、と発したつもりだったけど、音にならなかった。
喉がカラカラに乾いて喉にへばりついている。


「大丈夫? 起きれるか?」


私は涼介さんに支えられて起き上がると、用意してくれたお茶を湯呑からひと口飲み込んだ。


「仕事中に倒れたって聞いて、もう本当にびっくりしたよ」


ゆっくりと喉を潤した私はようやく生き返ったような気がして、湯呑を涼介さんに渡す。


「お仕事、忙しかったんじゃ」
「菜緒のためなら飛んでくるよ」


はにかんだ笑顔がうれしいはずなのに、心から喜べない。

唯子さんとふたりで会っていたのも悲しいし、嘘を吐かれたことも悲しい。
思い返せば眠れなくて、食事も喉を通らない。


「菜緒?」


思いつめた表情で口をつぐむ私を、涼介さんは困った表情で見た。

窓の外の空は、ピンクと紫の間の色に染まっていた。
すぐに目を覚ましたという感覚はどうやら間違っていたようで、私は何時間も眠っていたらしい。

まともに仕事もできなくて母や仲居仲間に迷惑をかけるくらいなら、もう、平気な振りをしていられない。

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