愛執身ごもり婚~独占欲強めな御曹司にお見合い婚で奪われました~
言葉の意味がわからず首を傾げる私に、涼介さんは照れたように口を開いた。


「試し書きしただろ。〝月島菜緒〟って。夢が叶って無性にうれしくて、記念に取っておきたいんだ。だから婚姻届は違う封筒に入れて持って行ったよ」


予想外の微笑ましい理由に、私は二の句が継げなかった。

朝なんてやってこないんじゃないかと絶望するほど暗かった心が晴れてゆくように、ポカポカと温かくなる。

けれど、頭痛は治まりそうにないし、空腹だからか軽い吐き気がずっとあってなんだか気持ちが悪い。


「もう少し横になる? 顔色がまだちょっと悪いから」
「うん」


涼介さんの言葉に甘え、私は再びベッドに横になった。
仕事に戻ろうにもこの体調だとまた母たちの足を引っ張るし、時間もそろそろ夜の営業を迎える頃だろう。

もう少し休んでからみんなに謝って帰ろう、と思ったとき。


「ずっと気になっていたんだけど」


涼介さんが躊躇いがちに話し始めた。


「菜緒、妊娠してる可能性はないか?」
「え? 妊、娠……?」


たどたどしく復唱した私は、緩慢な思考を急いで働かせる。

ええと、先月の生理はいつだったっけ。今月は?


「そういえば今月、きてない……」


他人事のような調子で言った私は、涼介さんの目をぽかんと見つめた。

忙しさや悩みに不安定だったこともあり、すっかり忘れていた。
まだ生理不順だっていう可能性もあるし、検査してみるまでわからないけれど、私は無意識でお腹に手をあてる。


「もしかしたら、って思ったんだ」


まるで確信していたかのように、涼介さんは頬を弛緩させて言った。


「え? どうして……」
「ほら、人混みで目眩がしたり、食事もあっさりしたものを好んでいるようだし。どこかぼんやりしていて頬が紅潮しているように見えてて、体温が高いんじゃないかって気がついてね」

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