恋の蛇足
別れてから一度だけ、帰ろうとする彼を引き留めたことがある。

「……帰るの?」

私が彼の腕をつかもうとすると、するりとかわされた。彼から、鼻がぶつかるくらい顔を寄せる。

「はい、帰ります。明日の朝までおしゃべりしてもいいですけど、キスしないし抱きませんよ」

ふいに彼は無邪気に残酷さを発揮する。
私はその残酷さに殴られる。
そんな気持ちからではないと伝わらないことに絶望しつつ、突き詰めればやはり抱かれたいと同義なのかも知れないと思った。

私は辱しめられた気持ちになって、彼の背中を叩いて追い出した。
彼がいる前でドアを施錠して、玄関で嗚咽して崩れ落ちた。
そんなことをしたからもう来ないと思ったが、翌週には彼は笑いながら私の部屋でご飯を食べているのだった。

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だから、セフレなんて色気のある関係ではなかった。

友達と呼ぶには、心が遠くて近い不安定な関係だった。
ある意味終わりなんて来ないはずだったのに、どうしてこうなってしまったのだろう。
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