コミュ障
何度目かは分からない会議は回を増すごとにストレスは減っていたが、それでも神経を擦り減らしてしまう。
毎回のことのように会議室を出て行くときは一番最後で、顔は疲労に染まっているだろう。
初回のようなミスをすることはなかったが、阿部だったらもっと上手くできるとも強く感じられた。
しっかりと準備をしていくのは良いが、想定外の質問が来たときはうまく言葉にすることが出来ない。
そしてそれを想定しておかなかった自分にも腹が立ち嫌気がさす。
私は昔から物語を描くのが好きだった。
悩みといえば頭の中にある物語が文章化したらつまらなくなっていたり、思った通りに描写できない事であった。
就職してからは間近で自分とは違う才能の塊を見せつけられ、サポートに甘んじている事が辛かった。
けれど、ここに来て初めてシナリオ担当になれたのに、悩みは増していくばかりだ。
しかも、それはシナリオと関係のないことばかり。
私はシナリオが、物語が書ければそれでいいのに。
どうしてこんな無駄な悩みを抱えないといけないのだろうか。
日に日に落ちていく気分を変えるため、私は会議の帰りにほんの十分だけサボることを決めてしまった。
サボると言い切るわけじゃないが、会社を出てコーヒーを飲みに行く時間ではないからサボりだろう。
後ろめたさを誤魔化しながらカフェに入り、店内から隠れるように角の席に座る。
アイスコーヒーを普段ブラックで飲むことなどないのだが、今日はなんとなくガムシロップは取らなかった。
「・・・はぁ」
一口口をつけるとほのかな苦味と酸味が舌の上で踊る。
脳を刺激されて強制的に覚醒されるような不思議な感覚であったが、今の気分を変えるには悪くなかった。
今日もボロボロだった会議を思い出しながら、前よりはマシになったノートを見つめて何を進めればいいのかを書き出していく。
仕事の気分を変えるために来たのに結局仕事のことを考えてしまっている。
だったらカフェに来なくてもよかったのに。
私はそれを深く後悔することとなる。
「アンタも言われたの?」
「そうそう、なんか余計な事をって言いたいのかしらね」
少し離れた席の声が、喧騒の中やけに大きく聞こえてくる。
「ノートから少し目を上げると、そこには会社で見慣れた女性が二人膝を突き合わせていた。
「あーあ。これだったら阿部さんの方がよかった」
よく知っている名前を聞いてしまうと、嫌でも意識が会話に持っていかれてしまう。
十中八九聞きたくない話が飛び込んでくるだろうに、意識しないように意識しないようにと考える程にやけに二人の声は大きく聞こえてくる。
「すみません、すみませんばっかり。真中さんって、か弱いアピールなのかな」
「あ、分かる!感謝しないのにずっと謝ってるんだよね」
その会話は良く考えてられていないもので、あくまで笑い話として話しているのかも知れない。
けれど、今の私にそんな事考えられる程強いメンタルは残っていなかった。
「野々宮さんとかプログラマーの岸さんとかさ、いっつも真中さんに気遣ってんのに謝られて可哀想」
気遣われている事など私が一番よく分かっている。
それに感謝はちゃんとしている。
私の事をよく知りもしない癖に勝手な事を。
「同じライターの阿部さんが優秀でカッコいいからさ、女の子アピールしてるんじゃない?」
「いやー。あれはただのコミュ障でしょ。いい大人になってさ」
人見知りで上手く話せないのも自分が一番よく分かっている。
でも、それがどれだけ苦しい事なのか分からないだろう。
頭では分かっているのに、身体が人を拒絶してしまうのだ。
会社をサボって人の悪口を話すだけの頭の悪さでは理解しようともしていないのだろうが。
そう考えて、ふとそれは自分にも同じ事を言えたのだと気が付いてしまう。
そうなると思考が自分でも止められずどんどん下に深く潜っていってしまう。
嫌だ・・・。考えたくない。
そう悲鳴を上げながら、私は結局退社の時間になるまで指一本動かすことができなかった。
会社の大体の人間が居なくなった時間に荷物を取りに帰る。
毎回のことのように会議室を出て行くときは一番最後で、顔は疲労に染まっているだろう。
初回のようなミスをすることはなかったが、阿部だったらもっと上手くできるとも強く感じられた。
しっかりと準備をしていくのは良いが、想定外の質問が来たときはうまく言葉にすることが出来ない。
そしてそれを想定しておかなかった自分にも腹が立ち嫌気がさす。
私は昔から物語を描くのが好きだった。
悩みといえば頭の中にある物語が文章化したらつまらなくなっていたり、思った通りに描写できない事であった。
就職してからは間近で自分とは違う才能の塊を見せつけられ、サポートに甘んじている事が辛かった。
けれど、ここに来て初めてシナリオ担当になれたのに、悩みは増していくばかりだ。
しかも、それはシナリオと関係のないことばかり。
私はシナリオが、物語が書ければそれでいいのに。
どうしてこんな無駄な悩みを抱えないといけないのだろうか。
日に日に落ちていく気分を変えるため、私は会議の帰りにほんの十分だけサボることを決めてしまった。
サボると言い切るわけじゃないが、会社を出てコーヒーを飲みに行く時間ではないからサボりだろう。
後ろめたさを誤魔化しながらカフェに入り、店内から隠れるように角の席に座る。
アイスコーヒーを普段ブラックで飲むことなどないのだが、今日はなんとなくガムシロップは取らなかった。
「・・・はぁ」
一口口をつけるとほのかな苦味と酸味が舌の上で踊る。
脳を刺激されて強制的に覚醒されるような不思議な感覚であったが、今の気分を変えるには悪くなかった。
今日もボロボロだった会議を思い出しながら、前よりはマシになったノートを見つめて何を進めればいいのかを書き出していく。
仕事の気分を変えるために来たのに結局仕事のことを考えてしまっている。
だったらカフェに来なくてもよかったのに。
私はそれを深く後悔することとなる。
「アンタも言われたの?」
「そうそう、なんか余計な事をって言いたいのかしらね」
少し離れた席の声が、喧騒の中やけに大きく聞こえてくる。
「ノートから少し目を上げると、そこには会社で見慣れた女性が二人膝を突き合わせていた。
「あーあ。これだったら阿部さんの方がよかった」
よく知っている名前を聞いてしまうと、嫌でも意識が会話に持っていかれてしまう。
十中八九聞きたくない話が飛び込んでくるだろうに、意識しないように意識しないようにと考える程にやけに二人の声は大きく聞こえてくる。
「すみません、すみませんばっかり。真中さんって、か弱いアピールなのかな」
「あ、分かる!感謝しないのにずっと謝ってるんだよね」
その会話は良く考えてられていないもので、あくまで笑い話として話しているのかも知れない。
けれど、今の私にそんな事考えられる程強いメンタルは残っていなかった。
「野々宮さんとかプログラマーの岸さんとかさ、いっつも真中さんに気遣ってんのに謝られて可哀想」
気遣われている事など私が一番よく分かっている。
それに感謝はちゃんとしている。
私の事をよく知りもしない癖に勝手な事を。
「同じライターの阿部さんが優秀でカッコいいからさ、女の子アピールしてるんじゃない?」
「いやー。あれはただのコミュ障でしょ。いい大人になってさ」
人見知りで上手く話せないのも自分が一番よく分かっている。
でも、それがどれだけ苦しい事なのか分からないだろう。
頭では分かっているのに、身体が人を拒絶してしまうのだ。
会社をサボって人の悪口を話すだけの頭の悪さでは理解しようともしていないのだろうが。
そう考えて、ふとそれは自分にも同じ事を言えたのだと気が付いてしまう。
そうなると思考が自分でも止められずどんどん下に深く潜っていってしまう。
嫌だ・・・。考えたくない。
そう悲鳴を上げながら、私は結局退社の時間になるまで指一本動かすことができなかった。
会社の大体の人間が居なくなった時間に荷物を取りに帰る。