コミュ障
次の日、私は会議が始まる前に先に移動して座っていた。
まずは人見知りをなくす事ができれば、と考えた時は妙に衝動的で良かった。
でも、今更自分から話し掛けて変だと思われるのも恥ずかしい。
周りでは集まり始めた人間で他愛もない天気の話や、趣味の話でアイスブレイクしているのだが、私は一人下を向いていた。
その会話のどれもが一度はシュミレーションしたものであり、さらに言えば話している人も怖くないしむしろ優しい人で話し掛けやすい。
でも、急に会話に混ざるという勇気がでなくて、私は一人ペンを持ってノートに書き込むフリをしながら会話に入り込む勇気を蓄えていた。
反対側ではいま公開中の映画の話をしている。
それは私も好きなシリーズで、一作目から観ているから話に混ざりたい気持ちもある。
だが、やっぱり後一歩の勇気が出なかった。
会議が終わりデスクに戻った私を迎えた阿部とは、昨日の事があって何故だか少しだけ気恥ずかしくて。
いつも話す訳ではないが、今日はさらに話すことは少なかった。
本当だったら、昨日言ってくれたようにコミュニケーションのコツなんかも聞いてみたい。
誰とでも仲良く話せなくても良いから、少なくとも会議でちゃんと話せるようになりたい。
そういう意味では会話ではなく話すコツを聞きたいのかも知れない。
でも、話すコツを聞くために話し掛けなければいけないのは少しハードルが高く思えてならなかった。
そう一人で思考の海に溺れかけていると、隣のデスクで阿部が私にしか聞こえないような大きさで、何かを思い出したかのような声を上げた。
「あっ」
「・・・」
「真中、おはよう」
私の名前が聞こえてそちらに顔を向けると、阿部は何事もなかったかのように自分のパソコンをいじっていた。
「・・・」
じっと見ていた私に気がついたのか、阿部は軽く首を傾げながら笑顔を向けてきた。
「ん?何?」
「・・・なに、って。話し掛けたの阿部でしょ」
私は待っていただけ。
そう考えながら意識して目を見ると、阿部はあっさりと視線を切って笑っていた。
「あっ!はは、違う違う!今日まだ真中におはようって言ってないなーって」
「・・・それだけ?」
「それだけってなんだよ、挨拶は大事なんだぞ?」
楽しそうに笑い続ける阿部は、パソコンを閉じて私の方を向いた。
「昔やった恋愛ゲームは挨拶をすれば好感度上がったからな…何回も挨拶してた」
「・・・ゲームの中だけでしょ」
「まぁね?でも、挨拶することで会話が始まりやすくなる」
今みたいに、いたずらが上手くいった少年のような笑顔を見せながら、阿部は椅子に深く座り直した。
「ちゃんと目を見て挨拶をすればまず返してくれるって。そこでいつもより頑張って数秒だけ目を合わせたままでいてみな?…あー、でも相手が結構話したがりのやつの方が安心だけどな」
結局勝手にコミュニケーションのコツみたいなものを言った阿部は、いつもより早く会話を切り上げて椅子から立ち上がった。
タバコの時間です、と笑いながら去っていく背中を見ながら、私は今言われたことを反芻させていた。
まずは目を見て挨拶、そして数秒そのままで待ってみる、だったか。
そんな子供に言うような事、当たり前だろう。
でも、それが実行できるかと言われれば、それも甚だ疑問であった。
人と目を合わせるのすら気合をいれないといけないのに。
挨拶だけとはいえ自分から声を掛けるというのも足されると、それはなかなかに難しい事である。
いつもしないことしてきた、と思われるだろうし、こいつ何も話さないのかな?というあの視線も苦手だ。
結局阿部がタバコから帰ってくるまで私は一人で悩み続けていた。
お昼、コンビニに行く途中で部長が見えたので、いつも通り頭を下げながら通過しようと考え、ふとそこで立ち止まった。
いつもそうだからダメなのかもしれない。
変わりたいと思えたのだから、少しだけ勇気を出してみよう。
朝の会議の時みたいにまた失敗するのだけは嫌だった。
「お、お疲れ様です」
少し詰まってしまったが部長の目を見てそう告げた。
「真中、お疲れ。今から休憩か?」
「・・・っえ。あ、はい」
「初めてのメインで大変だろうからゆっくり休めよ?・・・食べに行くのか?」
矢継ぎ早に声を掛けられ、私は戸惑ってしまい頭がうまく回らなかった。
何を聞かれたのかと頭の中で整理する前に口が勝手に「はい」とどっちに対してのかも分からない返答を出している。
「・・・そうか、また午後も頑張れよ」
それだけ言うと部長は一足先にオフィスを後にしてしまう。
阿部に言われた通りやれば確かに声を掛けてもらえたが、それから私が上手く返せるのかは別の問題だったらしい。
コンビニで買った弁当を温めるかどうかという質問にも小さく首を振るしかできなかった私は、早々にデスクに戻って落ち込んでいた。
思ったより、変わるというのは疲れるし難しい。
家に帰ったら何か調べてみよう。
気休めにしかならないかもしれないが、それくらいの事をしなければ何も動けない気がする。
まずは、阿部が言っていたように挨拶。
そして、そこから話が出来るようにならなければ。
仕事以外でも課題は山積みであった。
まずは人見知りをなくす事ができれば、と考えた時は妙に衝動的で良かった。
でも、今更自分から話し掛けて変だと思われるのも恥ずかしい。
周りでは集まり始めた人間で他愛もない天気の話や、趣味の話でアイスブレイクしているのだが、私は一人下を向いていた。
その会話のどれもが一度はシュミレーションしたものであり、さらに言えば話している人も怖くないしむしろ優しい人で話し掛けやすい。
でも、急に会話に混ざるという勇気がでなくて、私は一人ペンを持ってノートに書き込むフリをしながら会話に入り込む勇気を蓄えていた。
反対側ではいま公開中の映画の話をしている。
それは私も好きなシリーズで、一作目から観ているから話に混ざりたい気持ちもある。
だが、やっぱり後一歩の勇気が出なかった。
会議が終わりデスクに戻った私を迎えた阿部とは、昨日の事があって何故だか少しだけ気恥ずかしくて。
いつも話す訳ではないが、今日はさらに話すことは少なかった。
本当だったら、昨日言ってくれたようにコミュニケーションのコツなんかも聞いてみたい。
誰とでも仲良く話せなくても良いから、少なくとも会議でちゃんと話せるようになりたい。
そういう意味では会話ではなく話すコツを聞きたいのかも知れない。
でも、話すコツを聞くために話し掛けなければいけないのは少しハードルが高く思えてならなかった。
そう一人で思考の海に溺れかけていると、隣のデスクで阿部が私にしか聞こえないような大きさで、何かを思い出したかのような声を上げた。
「あっ」
「・・・」
「真中、おはよう」
私の名前が聞こえてそちらに顔を向けると、阿部は何事もなかったかのように自分のパソコンをいじっていた。
「・・・」
じっと見ていた私に気がついたのか、阿部は軽く首を傾げながら笑顔を向けてきた。
「ん?何?」
「・・・なに、って。話し掛けたの阿部でしょ」
私は待っていただけ。
そう考えながら意識して目を見ると、阿部はあっさりと視線を切って笑っていた。
「あっ!はは、違う違う!今日まだ真中におはようって言ってないなーって」
「・・・それだけ?」
「それだけってなんだよ、挨拶は大事なんだぞ?」
楽しそうに笑い続ける阿部は、パソコンを閉じて私の方を向いた。
「昔やった恋愛ゲームは挨拶をすれば好感度上がったからな…何回も挨拶してた」
「・・・ゲームの中だけでしょ」
「まぁね?でも、挨拶することで会話が始まりやすくなる」
今みたいに、いたずらが上手くいった少年のような笑顔を見せながら、阿部は椅子に深く座り直した。
「ちゃんと目を見て挨拶をすればまず返してくれるって。そこでいつもより頑張って数秒だけ目を合わせたままでいてみな?…あー、でも相手が結構話したがりのやつの方が安心だけどな」
結局勝手にコミュニケーションのコツみたいなものを言った阿部は、いつもより早く会話を切り上げて椅子から立ち上がった。
タバコの時間です、と笑いながら去っていく背中を見ながら、私は今言われたことを反芻させていた。
まずは目を見て挨拶、そして数秒そのままで待ってみる、だったか。
そんな子供に言うような事、当たり前だろう。
でも、それが実行できるかと言われれば、それも甚だ疑問であった。
人と目を合わせるのすら気合をいれないといけないのに。
挨拶だけとはいえ自分から声を掛けるというのも足されると、それはなかなかに難しい事である。
いつもしないことしてきた、と思われるだろうし、こいつ何も話さないのかな?というあの視線も苦手だ。
結局阿部がタバコから帰ってくるまで私は一人で悩み続けていた。
お昼、コンビニに行く途中で部長が見えたので、いつも通り頭を下げながら通過しようと考え、ふとそこで立ち止まった。
いつもそうだからダメなのかもしれない。
変わりたいと思えたのだから、少しだけ勇気を出してみよう。
朝の会議の時みたいにまた失敗するのだけは嫌だった。
「お、お疲れ様です」
少し詰まってしまったが部長の目を見てそう告げた。
「真中、お疲れ。今から休憩か?」
「・・・っえ。あ、はい」
「初めてのメインで大変だろうからゆっくり休めよ?・・・食べに行くのか?」
矢継ぎ早に声を掛けられ、私は戸惑ってしまい頭がうまく回らなかった。
何を聞かれたのかと頭の中で整理する前に口が勝手に「はい」とどっちに対してのかも分からない返答を出している。
「・・・そうか、また午後も頑張れよ」
それだけ言うと部長は一足先にオフィスを後にしてしまう。
阿部に言われた通りやれば確かに声を掛けてもらえたが、それから私が上手く返せるのかは別の問題だったらしい。
コンビニで買った弁当を温めるかどうかという質問にも小さく首を振るしかできなかった私は、早々にデスクに戻って落ち込んでいた。
思ったより、変わるというのは疲れるし難しい。
家に帰ったら何か調べてみよう。
気休めにしかならないかもしれないが、それくらいの事をしなければ何も動けない気がする。
まずは、阿部が言っていたように挨拶。
そして、そこから話が出来るようにならなければ。
仕事以外でも課題は山積みであった。