寵愛紳士 ~今夜、献身的なエリート上司に迫られる~
階段を上がってきた晴久はスーツのままだった。アパート内に入ると同時に眼鏡とマスクを取り払ったらしく、今は素顔である。
ドアに背をつけてうつむいていた雪乃の近くへ寄り、「雪乃」と声を掛けるが、彼女は返事をしない。
代わりに「どうぞ」と消え入りそうな声でつぶやき、ドアを開けた。
彼女の肩が震えているとすぐに気付いた晴久は、玄関のドアが閉まるのを待ってから、もう一度「雪乃」と声をかける。
彼女はそれにピクリと前髪を揺らしただけで、振り向きもせず、カタカタと震えていた。
「晴久さんの話したいことって……なんですか?」
今にも泣きそうな声で尋ねる雪乃に胸が締め付けられた晴久は、鞄を床に置いた。
ゆっくりと手を伸ばし、彼女の肩を後ろから抱きしめる。
「えっ……」
彼女の体はすっぽりと包まれる。