寵愛紳士 ~今夜、献身的なエリート上司に迫られる~
「私はお仕事中の課長を見たことがないので、憶測しかできませんが……晴久さんは、ずるい手を使って誰かを貶めるような人ではありません。おふたりの間でなにか誤解があるのではないでしょうか」
冷静に、言葉を選びながら答えた雪乃だが、〝晴久さん〟という呼び方に眉をひそめた伊川は、大きくため息をついた。
「ねぇ、細川さん。これは言いにくいんだけど……キミはあまり高杉課長を知らないんじゃないかなぁ」
「えっ?」
「そんなに聖人みたいな人じゃないよ。あれだけ女に言い寄られてたら手も出してるだろうし」
「そんなはずありません!」
晴久のトラウマがどれほどのものか理解している雪乃は、そこは強く否定した。
(社員の女性にストーカーをされてから、何年も女性と関わってないって言ってたんだから!)
「怖い怖い。そんなに怒らないでよ。ほら、カクテルでも飲んで落ち着いて」
グラスを手に持たされ、煽られるままに、またひと口。
「……ちょっと、お手洗いに失礼します」
「うん」
雪乃は、ひとまず落ち着こうと鞄を持って席を立った。
洗面台のついたトイレの個室に入り、ふーっと息をつく。
(……なんだか、相談っていう雰囲気じゃない。これって私、連れ回されてるだけなのかも……)
やっと現状に気付き、嫌な予感がしてきた雪乃は慌ててスマホを開いた。