寵愛紳士 ~今夜、献身的なエリート上司に迫られる~

いくつかの不安うちのひとつに、雪乃との六歳の年の差がある。そこを理解してもらえるか、不安がよぎった。

寒々とした田舎道に入ってからは晴久は緊張気味になり口数が減った。これから恋人の両親に会うのだから当然だろう。

引き換え、雪乃は余裕のある表情で心を弾ませている。

(お母さんもお父さんも、晴久さんを連れてきたら喜ぶだろうな)

硬い表情の晴久をよそに彼女がここまで楽観的でいられるのは、すでに電話でよい手応えを感じていたからだ。

雪乃は二週間前の母との会話を思い出した。

『今なんて言ったの? 雪乃』

電話の向こうの母はの優しげな声は驚きで揺れていた。

『……だから。お付き合いしてる人がいるんだけど、うちにご招待したいの。いい?』

『えー!? 雪乃が恋人? 本当に? ちょっとお父さん! お父さん来てってば!』

『やっ、お母さん、お父さんは呼んでこなくていいよ! 伝えておいてくれれば!』

この電話をしているとき、晴久は横でクスクス笑っており、恥ずかしくなった雪乃は『もう……』とスマホの向こうにため息をつく。

『おい母さんから聞いたぞ。恋人連れてくるんだって?』


父親の低い声に切り替わった。同様した雪乃は『うん』と小さく返事だけをする。


『そうか……。ぜひ来てもらいなさい。いつでも歓迎するよ。よかったな、雪乃。よかった』


(……あのときのお父さん、少し泣いてたな)


鼻声の父の言葉を思い出しながら、雪乃は微笑んだ。

十年前のトラウマを引きずっていた彼女を、両親はずっと心配していた。

異常なまでの男性への恐怖も仕方のないことだと。おそらくこの子には一生恋人などできないだろう、そう覚悟していたのだ。

(大丈夫だよお父さん。素敵な人と出会えたから)

運転に夢中になっている晴久を、晴れ晴れとした気持ちで見つめる。
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