寵愛紳士 ~今夜、献身的なエリート上司に迫られる~

「どうかした? 雪乃」

横目だけの視線を返した晴久に、雪乃はまた微笑んだ。

「ふふ、晴久さんのこと大好きだなあって思っただけですよ」

彼女の笑顔にキュンときた晴久は、フロントガラスに目を戻す。付き合い始めてから今までの期間で雪乃はまっすぐに愛を伝えるようになり、うれしくも晴久の心臓には悪い。

「今日は手が出せないんだから、あんまりかわいいこと言わないでくれる」

「えっ」

予定では雪乃の実家に一泊することになっているが、もちろんそこでコトを始める勇気はない。

雪乃の隣で寝ていて我慢できた試しがないため、今夜は厳しい戦いとなるだろう。それが分かっている晴久は、今から気持ちを落ち着けようと必死だった。

「だ、だって本当のことだから……」

「ありがとう。でも今日だけは好き禁止ね」

雪乃はむくれる。

「難しいです……。晴久さんを好きじゃなくなるなんて……」

「えっ!? いや、好きじゃなくなられたら困るよ。そういう意味じゃなくて」

慌ててかすかにハンドルがぶれた晴久に、雪乃はクスクスと笑う。

「雪乃、わざとでしょ」

「ふふふ」

「参ったな」

晴久は前髪をかきあげ、可憐に微笑む彼女をちらりと見た。

車は枯れた田んぼと住宅地が混ざった道に入り、雪乃の顔つきは懐かしむものへと変わっていく。

ここからは、彼女の故郷の町である。
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