寵愛紳士 ~今夜、献身的なエリート上司に迫られる~
大きくて骨ばった、それでいてしなやかな感触。手に触れると急に、彼のことがすごく好きだという想いがあふれた。
席を譲っていたイメージのとおりに優しく、思いやりのある人。
もしかしたら今までは恋とまでは呼べないものだったかもしれないが、その優しさが自分に振りかかった今、雪乃は改めて気持ちを確信した。
ただ、別にそれをどうしようというつもりはなく。
「……お願いしてもいいんですか?」
「もちろん」
彼は雪乃の手を引き、立たせた。男性の手に触れたのは何年ぶりか。自分の手とはまったく違う力強い感触は、暗闇の恐怖に一瞬で打ち勝った。
「よろしくお願いします。……えっと、お名前……」
「高杉といいます。高杉晴久です」
「高杉さん、ですね。私は細川雪乃と申します」
「細川さん」
名前を確認するように、晴久は復唱してうなずく。彼の口から自分の名前が出るなんて。雪乃の顔はポッと熱くなり、手もじわりと湿った。
「行きましょうか」
「はい」