寵愛紳士 ~今夜、献身的なエリート上司に迫られる~
「朝までにやらなきゃいけない仕事があったのに、忘れててさ。朝の会議の資料づくり。雪乃ちゃんと同じ時間に出勤するのなんて久しぶりだわ」
皆子は雪乃の頭をポンと撫でてから、向かいのデスクに着席する。
「私、お手伝いしますよ」
雪乃は立ち上がり、デスクの透明なついたての向こうへ手を差し出す。
皆子は申し出に素直に「ありがとう」と笑顔を返し、書類の束を半分、彼女の手に渡した。
信頼の厚い先輩後輩。
過去にいたずらで雪乃の眼鏡とマスクを無理やり外したことのある皆子は、このオフィスで唯一、雪乃の素顔を知っている人物である。
「雪乃ちゃん。まだ人いないし、マスク取ってもいいんじゃない? 眼鏡曇っちゃってるよ」
資料作りをふたりで開始してすぐ、皆子が目もとを指差して声をかけた。しかし雪乃は首を横に振る。
「着けてないと落ち着かないんです」