寵愛紳士 ~今夜、献身的なエリート上司に迫られる~
雪乃は一度寝室に引っ込み、着替えを済ませてから再度リビングの晴久へ戻った。
いつもの白のブラウスに、グレーのスカート、黒のカーディガン。素顔のおかげでかすかな華やかさは保っているものの、桃色のパジャマからは一気にトーンダウンした。
これはこれで綺麗だ、晴久は改めてそう感じたが、ここに眼鏡とマスクが加わると昨夜のような地味な仕上がりになるのだと思い出し、今の彼女をよく目に焼きつけた。
雪乃は何気なく、シンクに目をやった。あまり生活感がないのは食事を外で済ませているからだろうと納得した彼女は、晴久の食生活が少し心配になる。
しかしなにも触れずにソファで晴久の隣に座り、サンドイッチを食べ始めた。
「俺はいつもの電車で出勤しますが、細川さんはどうしますか?」
彼の問いに、雪乃はしばし考えて答えた。
「私は一度家に戻って荷物を置いてから行こうと思うので、今日は遅い電車に乗ります」
「会社は間に合うんですか?」
「はい。もともと始業までは時間があるんですけど、普段はかなり早めに行って仕事をしているんです。残業になると、暗い中を帰るのがつらいので……」
「なるほど」
話は終わったかに思えたが、雪乃は続けた。
「高杉さんも始業は遅いんですか? いつも、カフェに寄っていますよね」
その質問に、晴久は「え」と声を漏らして彼女を見た。