寵愛紳士 ~今夜、献身的なエリート上司に迫られる~

(しまった! 思わず聞いちゃった。駅から見てたのがバレちゃうっ)

赤くなって口を押さえる雪乃。彼女の様子に、晴久もつられて赤くなった。

「……どうして細川さんが、それを」

不安が的中し、不思議がる晴久を誤魔化せず、もう観念して白状するしかなかった。

「その、昨日も言いましたが、高杉さんのこといつも見ていたので……。す、すみません」

晴久は、昨夜の彼女の告白まがいな言葉を思い出した。

口を覆いながらその意味を考えていたが、出勤前のタイムリミットがある中で話題にするのはもったいなく、いったん「そうですか」と保留にし、落ち着いて返答する。

「俺は出勤前にコーヒーを飲んでから行くんです。会社の人と電車で乗り合わせるのがあまり好きではないので、早い時間に乗っています。実際の始業は八時半なのですが」

「あ、私も本当は八時半です」

朝食を終え、晴久が家を出る時刻の少し前に出ていくことにした雪乃は、荷物をまとめた。

洗濯物も全てここのものは汚さず、なにもやり残していないことを確認して回る。

準備が終わり、雪乃は持ってきたトートバッグを肩に掛けると、晴久に「本当にありがとうございました」と最後の挨拶をした。
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