寵愛紳士 ~今夜、献身的なエリート上司に迫られる~
「で、誰?」
皆子に再度小声で聞かれ、雪乃は今度こそ誤魔化しきれないと観念する。
しかしどうしても明かすことはできず、申し訳なさでうつ向いた。
「言えません。私の一方的な片思いですから……」
「えー、そうなの? 知りたかったなぁ。どうしてもダメ?」
「ごめんなさい皆子さん。いつもお話聞いてもらってるのに……」
実際はただの好奇心で聞き出しているだけだったが、健気に謝る雪乃に同性ながらトキめいた皆子。
デスクの引き出しを開け、小さな缶から銀紙に包まれたチョコレートをひとつ取って雪乃のデスクへ転がした。
「いいよいいよ。男の人が苦手な雪乃ちゃんに好きな人ができたってだけで、まずは嬉しいから。それお祝いね」
「わ、ありがとうございます」
小さなチョコレートひとつで目を細めて喜ぶ雪乃を見て、皆子も頬杖をついて微笑んだ。
「雪乃ちゃんのハートを射止めたんなら、さぞやいい男なんだろうなぁ」
「……はい。素敵な人です」
晴久を思い出し、さらに雪乃の頬は緩む。
雪乃を見つめながら皆子も恋人への片思い期間を振り返り、そういえばこんな感じだったなぁとしみじみ懐かしんだ。
「雪乃ちゃんは性格も良いし、顔はもちろん言うことなしなんだから。素直になれば上手くいくと思うよ。自信持って」
「……頑張ってみます!」
ガッツポーズをしてみせ、おしゃべりを終える。
晴久に恥じないようにと、さらに気合いを入れて仕事を再開した。