寵愛紳士 ~今夜、献身的なエリート上司に迫られる~

しばらく仕事に没頭していた晴久だが、いい匂いが漂い始め、顔を上げる。
ぐつぐつと鍋の煮える音がしている。

笑顔を浮かべながら素顔で料理を進める雪乃を盗み見て、晴久は彼女か料理か、どちらに対してか分からない唾を飲み込んだ。

その後、三十分が経ち、真剣にPCを見つめていた晴久を雪乃が横からヒョイッと覗き込む。

「わっ」

「ご飯は出来ましたけど、どうしますか? お仕事が終わってからで大丈夫ですよ。食べるとき、声かけて下さいね」

「あ、いや。もう食べようかな」

「じゃあ、準備します」

またパタパタとキッチンへ戻っていく。

雪乃は晴久の家にある不揃いな皿たちを上手く使い、料理を盛り付けていった。

メニューは白御飯に白菜の味噌汁、カボチャのサラダ、三葉と湯葉の煮物に、メインは鶏の照り焼き。

テーブルに並べられた彩りの良いおかずの数々に、晴久は「え!?」と感嘆の声が漏れた。

「すごいな。これ全部今作ったの?」

「はい。お口に合うといいんですけど」

テーブルには片面しかソファがないため、雪乃はエプロンを脱ぎ、晴久の隣に座った。

「いただきます」

手を合わせ、照り焼きを一口食べると、晴久は「すごい美味しい」と素直につぶやく。

「よかった。私もいただきます」

箸が止まらない晴久に笑顔を向けた雪乃も、上品に料理を口へと運んでいく。
< 95 / 247 >

この作品をシェア

pagetop