寵愛紳士 ~今夜、献身的なエリート上司に迫られる~
しばらく仕事に没頭していた晴久だが、いい匂いが漂い始め、顔を上げる。
ぐつぐつと鍋の煮える音がしている。
笑顔を浮かべながら素顔で料理を進める雪乃を盗み見て、晴久は彼女か料理か、どちらに対してか分からない唾を飲み込んだ。
その後、三十分が経ち、真剣にPCを見つめていた晴久を雪乃が横からヒョイッと覗き込む。
「わっ」
「ご飯は出来ましたけど、どうしますか? お仕事が終わってからで大丈夫ですよ。食べるとき、声かけて下さいね」
「あ、いや。もう食べようかな」
「じゃあ、準備します」
またパタパタとキッチンへ戻っていく。
雪乃は晴久の家にある不揃いな皿たちを上手く使い、料理を盛り付けていった。
メニューは白御飯に白菜の味噌汁、カボチャのサラダ、三葉と湯葉の煮物に、メインは鶏の照り焼き。
テーブルに並べられた彩りの良いおかずの数々に、晴久は「え!?」と感嘆の声が漏れた。
「すごいな。これ全部今作ったの?」
「はい。お口に合うといいんですけど」
テーブルには片面しかソファがないため、雪乃はエプロンを脱ぎ、晴久の隣に座った。
「いただきます」
手を合わせ、照り焼きを一口食べると、晴久は「すごい美味しい」と素直につぶやく。
「よかった。私もいただきます」
箸が止まらない晴久に笑顔を向けた雪乃も、上品に料理を口へと運んでいく。