白球と最後の夏~クローバーの約束~
 
キキッ!


そんな回想をしていると、錆びかけた自転車のブレーキの音で現実に引き戻された。

稜ちゃんがわたしの前に自転車を止めたんだ。


その様子を例えるなら、特撮ヒーローなんかがバイクの後輪だけを滑らせてかっこよく止める感じ、かな。

即席ヒーローの出来上がりだ。

こういう普段はあまり見ないお茶目なところもかわいらしくて、わたしはププッと吹き出して笑っちゃったんだ。


・・・・稜ちゃんママのお古の真っ赤なママチャリなのに。

そこがなぜかわたしにはツボで。

真っ赤なママチャリヒーローに扮した稜ちゃんに、わたしは終始笑いっぱなしだった。

そんなわたしに、稜ちゃんは「おかしくない!」ってちょっとムッとしたんだけどね。



・・・・でもね。

これも稜ちゃんの気の遣い方なんだって分かるんだ、わたし。

つい最近も部員の誰かが落ち込んでいて、そのとき何も聞かずにただ一緒にいてあげていたから。

わたしにもそうしてくれているんだと思うんだ。

それが稜ちゃんの優しさだって、小さい頃から知っているから。
 

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