谷間の姫百合 〜Liljekonvalj〜
『……あの……ヘッグルンド令嬢……?』
リリは訳がわからず、たじろいだ。
『あなたのご尊父オーケ・シェーンベリ氏には、我が父である男爵 ヨアキム・ヴァルデマル・ヘッグルンドおよび男爵領マーロウ領民になり代わり、私 ウルラ=ブリッド・ヘッグルンドが厚く感謝の意を申し上げるわ』
『いいえ……そんな……もったいないお言葉……』
リリは恐縮しながら、答礼のカーツィを返した。
『我がヘッグルンド領・マーロウは、北極圏に面した土地のため農業に適さず、かと言って近隣のシェレフテオのように鉄鉱石などの鉱産資源が採掘できるでもなく……本当に、森林しかないところなの。だから、男爵・グランホルム閣下のご紹介で父がシェーンベリ氏とのつながりを得て、我が領地でも林業に活路を見いだせて、おかげで貧しかった領民たちに仕事を与えることができたのよ』
シェーンベリ商会では、スウェーデン北部のヴェステルボッテン地方にあるグランホルム領ノーショーの木材だけでは賄えないときは、その隣にあるヘッグルンド領マーロウからも木材を搬出していた。
グランホルム領にしろ、ヘッグルンド領にしろ、「新事業」への新たな従事者の多くは、このスカンディナヴィアの北極圏に古来より住まう民、サーミ人だった。
昨今、この国の政府は彼らに対して、トナカイを遊牧させながらコタと呼ばれる移動式のテントで寝起きして暮らす生活をやめさせて、町に出て職に就いて定住する「同化政策」を推し進めていた。
『それから……あなたの「お相手」が、アンドレでなかったことにも、御礼申し上げるわ』