谷間の姫百合 〜Liljekonvalj〜

『物心がついたときにはもう、私とアンドレは婚約者同士だったけれども……
あなたが現れて、人間の人生って、なにがきっかけとなって、どう転ぶかわからないものだと思ったわ……』

ウルラ=ブリッド令嬢は一瞬、遠い目をした。

『もし、あなたがアンドレと結婚することになって、彼と私の婚約が解消されていたとしたら……』

一人の(ひと)と永い間婚約していた彼女が、相手側からいきなりそれを破棄されたとしたら、その後はかなり不利になることだろう。
おそらく、同年代の青年貴族の妻になるのは望むべくもない。
格だけはうんと上の貴族であろうと、かなり歳上の寡夫(やもめ)後妻(のちぞえ)におさまるのが関の山だろう。

もしくは、破棄した側が「責任を取る」というかたちで……


『……私の新しい婚約者には……ビョルンがなっていたかもしれないわね……』

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