谷間の姫百合 〜Liljekonvalj〜
重苦しい沈黙がしばらく続いたあと、グランホルム大尉の口が開いた。
「……ソファに腰掛けても?」
彼はオランジュリーに入った途端に、リリから「宣告」を受けた格好になっていた。
つまり、まだ立ったままだった。
「まぁ、ごめんあそばせ、とんだご無礼を……
……どうぞ、そちらにお掛けになって」
リリは非礼を詫び、あわてて相対する長椅子に彼を促した。そして、彼女も腰を下ろす。
そのあと、供された珈琲を無言のまま飲み終えた大尉は、改めてリリの方へ目を向けた。
「……理由を聞かせてくれないか?」
彼の琥珀色の瞳が、彼女を冷たく射抜く。ものすごい眼力だった。
「あなたの方から私に話があるというのは、初めてだからな。もしかして、不都合な話であろうことは予測していたが……」
彼は眉根をぐーっと深く寄せ、苦りきった表情になっていた。
……怒っていらっしゃるのだわ。それも、途方もなく。
「しかし、このような間際になって、あなたが婚約を解消したいというからには、余程の理由があってのことではないのか?」
……無理もないわ。私のような下賤の者から、こんな屈辱的な仕打ちを受けたのだもの。
リリはとうとう耐えきれず、大尉の強い眼力から目を逸らしてしまった。
「大尉、どうかお許しを……本当に、心の底から申し訳なく思って……」
庭園に向けて張り出した大きな窓の方へ目を背け、か細い声でつぶやくリリを、
「私はあなたから、謝罪の言葉を聞きたいわけではない。差し迫ったこの期に及んで、どうして私と結婚できないのかという、その理由を知りたいのだ」
大尉は即座に遮った。