谷間の姫百合 〜Liljekonvalj〜
「それに私は、あんな暴れ馬のような女を妻にするなんてごめんだな」
……暴れ馬?
リリは不可解な顔をして鼻白んだ。
「ウルラ=ブリッドは貴族の娘にしてはいささか型破りな……じゃじゃ馬的な気質があるんだ。
ストックホルムの社交界を離れられないのは、彼女の唯一貴族的なところだな。
私の兄とは幼い頃からの許婚同士だが、彼女は家のための政略結婚はしたくないと言って、自分たちは互いに愛し合っているから恋愛結婚だと言い張っている。また、結婚後子どもが生まれたら、乳母の手に委ねず自分自身で育てると、今から宣言しているよ。
それに……彼女は乗馬に夢中でね。自ら馬房に入り込んで馬の世話をしているくらいだ」
「あぁ、そういえば……かつてお会いした舞踏会の際に、馬が大好きだとおっしゃっていたわ」
リリはそのときの様子を思い出した。
常日頃から彼女は乗馬服を愛用しているらしく、リリの父が用意させて贈ったバッスルスタイルのドレスを、クリノリンの不要なドレスがこんなにも快適だなんて、といたく気に入っていた。
「あなたも子どもの頃から乗馬がお好きなのでしょう?彼女から、そう伺ったわ。
そして、『あなたも始めたら、喜んで遠乗りに連れて行ってくれてよ』って勧められたの。
だから私、あなたが望まれるのなら、たとえ怖くても挑戦するしかなさそうねと思って……」
「……だから、あのときあなたは、乗馬を始めるなどと言ったのか」
大尉は険しい顔を崩さず、苦々しげに言った。
「だけど、あなたからは『乗馬など、する必要はない』って、きっぱりと言われてしまったわ」
リリは肩を竦めた。
なんだか、あのとき受けた衝撃が甦ってきそうだった。
「それは……」
彼は一瞬、言い淀んだが、
「危ないじゃないか。大人になっていきなり乗馬なんかを始めて、もしあなたが馬から振り落とされでもしたらどうするんだ」
あとは一気に言い切った。