ゾーイ・テイラー〜温もり、のちにキス〜
「お父さんたちはね、シビラ族っていう民族なんだっていつも聞かせてくれた。私はよくわからないけど、すごい民族だってみんな言ってた。でも、ある日黒い服の人がやって来てお父さんたちを連れて行っちゃったの。私は隠れてそれを見てた」

ラックスの両親がどうなったのか、ロネは想像もしたくなかった。攫われた少数民族の人たちは、奴隷にされたり、見せ物にされたり、ひどい時には拷問にかけられたりするらしい。

「ラックスはここでずっと独りで暮らしているのか?」

ゾーイが訊ねるとラックスは頷く。どうやら仲間であるはずのシビラ族にも置いて行かれてしまったようだ。

「そうか……。独りで……」

ゾーイの顔に悲しみが現れる。ロネもその気持ちが痛いほどわかった。ゾーイはずっと独りで暮らすしかなかった。誰よりもラックスの気持ちを理解できる。

「なら、俺たちがラックスに会いに来るよ!俺たちがいれば独りじゃないよ」

ロネはゾーイとラックスの頭を撫で、そう言う。ゾーイは「ありがとう」と微笑んだ。
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