ゾーイ・テイラー〜温もり、のちにキス〜
「ヴォール!」

女の子があまりにも寒そうだったので、ロネは魔法の杖を振る。すると女の子を光が包み、暖かそうなコートとマフラーが着せられた。

「これで寒くないでしょ?」

ロネがそう言って微笑むと、女の子は「お兄さんすごい!!」と無邪気な笑顔を見せてくれた。ロネとゾーイは顔を見合わせ、微笑む。

「あなたの名前は?」

ゾーイの問いに女の子は「ラックス!ラックス・ローダンセ」と答えた。ラックスは花の名前だ。花びらが幾重にも重なり、愛らしい花を咲かせる。可愛らしい容姿のこの子の名前にぴったりだとロネは思った。

「ラックスちゃん、お父さんやお母さんは?」

ロネは一番気になっていたことを訊ねる。あんなボロボロの格好でこの森を小さな女の子が彷徨っているなど、信じられない。

「お父さんとお母さんは……いなくなっちゃった」

ラックスは寂しげな顔を見せる。ゾーイが「どうして?」と優しく訊ねると、ラックスはうつむき、口を開いた。
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