異世界和カフェ『玉響』。本日、開店いたします!
「……集中しろ」
「してるもん」

 ぼんやりと厨房からリーフの後ろ姿を眺めていると、側に居た父からお叱りが来た。反射的に言い返し、手元を見る。

 天板の上では、どら焼きの皮がそろそろひっくり返せと言わんばかりに焼けていた。

 数時間前、部屋でゴロゴロしていた私に、父が「暇なら、和菓子作りの練習だ」と言い出し、無理やり店の厨房に連れてきたから、今、こうなっているのだが、全く気乗りしない私は、なんでこんな目に……という気持ちでいっぱいだった。

 ショートエプロンを部屋着の上からつけ、昼間から父と一緒にどら焼き作り。

 大好きな父と一緒なのは嬉しいが、どうせ作るなら、どら焼きではなく、キャッキャウフフとクッキーやタルトを作りたかった。

 私は、地味な色合いが多い和菓子より、キラキラと可愛い洋菓子の方が好きなのだ。

 餡よりも生クリーム派。

 まだ十九歳ということを鑑みても、普通の感覚だと思う。
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