激愛~一途な御曹司は高嶺の花を娶りたい~
私はスーッと息を吸い込んでから、山村さまのところに向かった。

いつもはオープンになっている接客ブースを使っていたが、個室に案内したのは梓さんの計らいだろう。


「失礼します。ル・ブルジョンの重森です」
「どうぞ」


声をかけると返事があり、ドアを開けた。

すると、目を赤くした彼女が放心した様子で座っていたため胸が痛んだ。


「山村さま、このたびはなんと言ったらいいのか……」


どう声をかけるべきかわからず言葉を濁すと、彼女は神妙な面持ちで私を見つめて小さくため息をつく。


「どうぞ」


勧められて椅子に座れば、彼女のほうから口を開いた。


「あの……。もう、山村はちょっと」


そうだった。山村は正也さんのほうの姓だ。

破談になる可能性があるのに、彼の苗字で呼ばれるのは不愉快だろう。


「申し訳ありません。生島(いくしま)さま」

「私の苗字、ご存じなんですね」

「もちろんです」
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