氷の美女と冷血王子
「こういうことを言ってはなんですが、鈴木専務の方で何か思い当たる節はありませんか?」

えっ?
俺は驚いて顔を上げた。
一方川崎社長はまっすぐに俺の方を見て、

「私自身が普通でない環境に育ったのは事実です。子供の頃から誹謗中傷は当たり前に受けてきました。会社を始めるにあたってもずいぶんと逆風があったんです。しかし、今このタイミングにこのような記事を出すことでメリットのある人は私の方にいないように思います」

「それは・・・」
確かにそうかもしれない。

川崎紙業にとっても今回の事業は大きなチャンスではある。でも、仕事の1つでしかないのも事実だ。
この契約が流れたとして会社が窮地に立つ事はないだろう。
一方俺の方はかなり危うい状況だ。
今回の騒動、やはり河野副社長が関わっているのかもしれない。
川崎社長と話していて、俺はだんだんとその確信を持ち始めた。
まずは河野副社長を調べてみる方が先かもしれない。

「とは言え、誰か内部情報を流す人間がいなければここまでの記事は出ないでしょう。私の方でも調べてみますので、鈴木専務も調査をお願いします」

「はい」

おかしいな、どちらかと言うと抗議をしに来たつもりだったのに、今は俺の方が分が悪い気がする。
この人は、一見穏やかで温厚に見えて芯の強い人なのかもしれない。
俺はますますこの事業を成功させるんだと言う気持ちを強くした。
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